夏休み

大人と言われる歳になってから、「夏休み」を実感するひとはどれくらいいるのだろう。
会社に勤めていても、この暑い最中にある程度まとまった期間の休みを「支給」して貰える。
しかし「休暇」と「夏休み」とは、言葉や語感以前に根本的に違うものな気がしてならない。
休暇はただの休み、連休。
夏休みは、何か馬鹿馬鹿しいくらいの、子どもっぽい愉快なことに身を任せる期間。
ざっくりと私の感じる違いを述べるならそんなところだろうか。

今年の海の日の三連休、一足早く夏休みを満喫して来た。
一昨年初めて参加した、一年に一度のオールド・スクーター乗りの祭典「小豆島BIG RUMBLING」を楽しむため、
また瀬戸内海の島、小豆島へと渡った。
私自身はバイクの後部座席にしか乗らないのに、また参加する。なぜか。
それはもう、偏に島中毒に掛かってしまったからに他ならない。

小豆島という場所は、このオールド・スクーターイベントに本当にお誂え向きの場所である。
美しい海もあって、ジャングルのような山もある。
ランブリングするには、山道コースでも街中コースでも選べる適度な大きさ。
フェリーに乗って他の島をまわる楽しみもある。
焦げそうな日差しも島ならば納得出来るし、夕方になれば美しい夕日とともに涼しい空気が吹いてくる。
そしてこの島ならではの特産品もある。これ以上望むべくもないほどの環境。

このお祭りは正しく「解放されて愉快なことに身を任せる」、賑やかな遊びの場である。
昼は乗り物談義に花を咲かせたり、スクーターにまたがって島巡りをする。
夜は飲んで喋って音楽を楽しむ。もしくは私のように浜辺に寝そべってただただ満天の星を眺めて過ごす。
大人になってから降ってきた、まるで子供のときに待ち遠しかった夏休みのような解放である。

こう書くと、何でもありのうるさくてマナーがなってない集団の馬鹿騒ぎのように聞こえるかもしれない。
一般的に「バイクに乗る人」というのは、とかく眉をひそめられ勝ちである。
しかしそこは「オトナの遊び」。暗黙の了解ときちんとしたマナーの上になりたっている。
それでなければ16年もこんなイベントを続けられる訳がない。
みんなが気持ちよく楽しめるための、気遣い・礼儀。何がその場に最適なことかを読み取ること。
そういうルールともつかないルールが存在してこその楽しみである。

今年の小豆島の旅は、一昨年よりももっともっと充実していた。
みんなで列をなして港まで走り、途中からはこちらの気の向くまま島を巡る。
一昨年は話すことが出来なかったひとと夕暮れの空を見ながら特製の夕飯を食べ、
夜は誰かと話したければ灯りの点いた輪の中に混ぜてもらい、ひとりでぼんやりしたければ輪を離れて砂の上に寝そべる。
醤油屋さんでは倉を見せてもらいながらその店の誇りと知識を授けてもらい、
そこかしこでうどんを食べつつ、おじいさん一人でやっているお寿司屋さんの味も楽しんだ。

ワイワイ賑やかなのもひっそりと静かに過ごすのも、どちらも自由に選べる選択の余地のあるお祭り。
ありそうで意外とないものだ。
また来年もこの「オトナの夏休み大会」とも言うべきイベントに、戻ってきたいと思う。

 

 

BOOK246 column 2012.07.25